自賠責保険と自動車保険はどう違う?
自動車にかける保険に、強制保険である「自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)」と、任意で加入する「自動車保険」の2つがあることは、ご存知ですね? しかし、この2つの保険の関係を正確に理解している人は、意外と少ないようです。
自賠責保険は、自動車事故の被害者救済のために作られた強制保険です。交通事故の被害者が泣き寝入りすることなく最低限の補償を受けられるようにと、国家主導で作られた対人賠償保険で、公道を走るすべての車(原動機付自転車を含む)に加入が義務付けられています。自賠責保険から支払われる保険金は、1事故1名につき死亡3000万円、後遺障害4000万円、傷害120万円を上限に、実際の損害額相当が支払われます。
一方、自動車保険は自賠責保険を補完するために開発された任意保険です。対人賠償保険、対物賠償保険、無保険車傷害保険、自損事故保険、搭乗者傷害保険、車両保険、人身傷害保険の7つの保険と各種特約を組み合わせて契約するしくみになっています。
自賠責保険と自動車保険の関係で、注意して欲しいことが2つあります。
第一は、自賠責保険が事故の相手(被害者)に対する人身損害(対物賠償)に限られている点です。被害者の身体・生命に対する補償だけなので、自損事故による運転者自身のケガや、マイカーの損害、事故の相手の車や公共物などに与えた損害は対象になりません。自賠責保険で車の修理代もカバーできると思っている人が多いようですが、そんなことはゼッタイにありませんのであしからず。
<自賠責保険の対象にならないケース>- 運転者自身のケガ
- マイカーの修理代
- 単独の人身事故(例:運転ミスで電柱に衝突した)
- 相手のモノ(車、家、塀など)に対する損害賠償
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ちなみに、自動車保険にはこれらの補償が付いています。自賠責保険ではカバーしきれない部分を補えるように開発されたのですから、当然ですね。
第二は、自賠責保険と自動車保険(対人賠償保険)では、根拠法が違う点です。
対人賠償保険は民法に則って、契約者が事故の相手に対して、民法上の賠償義務を負ったときに、契約者に代わって賠償金を支払う仕組みになっています。
この場合、過失相殺が行われることが前提となるため、相手に支払われるのは契約者の過失分のみになります。たとえば、相手の3000万円の人身損害を被っていても、契約者の過失が60%、相手の過失が40%であれば、「3000万円×60%=1800万円」が契約者の対人賠償保険から支払われることになります。
一方、自賠責保険は「自賠法(自動車損害賠償保障法)」という法律によって作られた保険です。この法律では、加害者自らが自分に責任がなかったこと(無責三条件すべて)を立証しない限り、被害者に対して賠償責任を負わなければいけないと定められています。
<無責3条件>- 自分および運転者が、自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと
- 被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと
- 自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと
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自賠法は民法の特別法なので、自賠責保険でカバーできる損害額に関しては自賠法が優先して適用されます。この場合、被害者の過失が7割未満であれば、過失相殺されることなく、損害額相当の保険金が支払われることになります。
また、被害者の過失が7割以上であっても、過失割合に応じて損害額を減額するしくみになっているため、相手の過失がゼロ(被害者の過失100%)でないかぎり、過失相殺した場合よりも多く保険金が受けられるのです。
<被害者に重大な過失がある場合の減額率>- 被害者の過失が7割以上8割未満の場合・・・死亡・傷害ともに2割減額
- 被害者の過失が8割以上9割以下の場合・・・死亡3割減額、傷害2割減額
- 被害者の過失が9割以上10割未満の場合・・・死亡5割減額、傷害2割減額
- 被害者の過失が10割(相手の過失ゼロ)の場合・・・保険金の支払いなし
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損害額が自賠責保険の支払額を超える場合は、民法に則って過失相殺されます。被害者に過失があれば、損害額を過失相殺して賠償額を計算し、その賠償額から自賠責保険の支払額を差し引いたものが、自動車保険(対人賠償保険)の保険金として支払われることになるので覚えておきましょう。
by
柳澤 美由紀(CFP 福岡県 福岡市)