<事故現場での対応>
事故処理では「初期対応」が重要になります。保険会社が相手方と交渉するときは当然ですが、実際の事故では保険会社や代理店に連絡する前に相手方と顔を合わせるケースが多いのが現状です。
Tの字の交差点で一時停止の標識を見落として交差点内に右方から進入してきた相手車両と衝突したとします。その車から怖そうなお兄さんが降りてきて自分の車を指差してこう言いました。
「ずいぶん派手にやってくれたな。首のあたりがだいぶ痛んだが治療費と車の修理代金はきっちり払ってくれるんだろうな。」まあ、誠意を見せろというところです。
加害者である意識もあり、「わかりました。賠償させていただきます。」と答えるとすかさず、無造作にポケットから紙切れを取り出して、「それじゃ、ここに今回の事故について全面的に賠償しますと書いてくれや。」と相手方。そのメモを後生大事に持っているわけです。
今回の事故形態は加害者からすると、過失割合の基本は7:3の事故で、全額賠償を受けられないことを知っていたのかもしれません。保険会社から損害額の7割を受け取った後、加害者の残りの3割を請求してきたのです。
「全面的に賠償すると言ったよな。まだ、残りの100万は受け取ってないぞ。」と。ここで、この加害者は大きな間違いを犯しています。まず、事故現場で賠償額の話をしてはいけないということです。「全額賠償しろ。」「はい、わかりました。」という受け応えで、示談を成立させてしまったのです。
このようなケースでは、まず、けがの状況を確認し、しかるべき措置を講じるとともに、警察へ連絡しなければなりません。警察がくるまで時間がかかりますので、今回のように賠償の話をしてきたら、「保険に加入していますので、賠償につきましては保険会社を通してやらしてもらいたいと思います。」とやんわり対応し、相手方の連絡先等を確認しておくべきです。
その場で、保険会社(代理店)に連絡して指示を仰ぐのもよいでしょう。最も重要なことは、事故を起こさないように日頃から車の点検や安全運転に心掛け、万一のことがあった場合は、速やかに対応できる心の準備と対応策を考えておくことです。これがリスクマネジメントです。
「自動車保険に加入していれば、すべて保険会社がやってくれる。」こういう考えはすぐに改めるべきです。
by 安井敏夫(CFP 東京都足立区)