<妻は他人?>
Aさんは、夫の運転する自動車の助手席に同乗中、夫の過失により道路から自動車が転落したため全治6ヶ月の重傷を負ってしまいました。
Aさんは夫が契約する自賠責保険会社に保険金の請求をしましたが、保険会社は支払いを拒絶。納得の行かないAさんは、裁判に訴えて出ました。その行方は・・・。
自賠法第3条では、自己のため自動車の運行の用に供するもの(その自動車の使用者や所有者などです)および運転者以外の者を「他人」といっています。
この「他人」を自動車事故で死傷させた場合、支払われるのが自賠責保険です。この裁判での争点は、Aさんが、自賠法上でいう「他人」に当たるかどうかということです。
最高裁(昭和47年5月30日判決)では、自動車は夫が所有して維持費も負担し、夫がもっぱら運転して妻は免許を持っていなかった等の理由により、「他人」に該当するという判決を下しています。
これが、それまでの実務を覆した「妻は他人」事件として知られる画期的な判決です。では、「妻はいつでも他人?」でしょうか。
Aさんが運転免許を持ち、夫の所有する自動車をよく運転していたならば、この判決内容も変わっていたことでしょう。
では、任意の自動車保険ではどうでしょう。対人賠償責任保険では、記名被保険者(通常、契約者)の配偶者は被保険者本人となり、その者が傷害を被っても保険金は支払われません。ただし、搭乗者傷害保険などは支払い対象になります。
次のようなケースではどうでしょうか?B君は、友達数人と海水浴に行く企画を立てました。自分の他に友達が1台車を出してくれたので(それぞれがその車の所有者)、2台に分乗して現地に向かいました。
途中、B君は疲れたため助手席に同乗しているC君と運転を替わってもらいました(B君は自分の車の助手席で休む)。C君運転の車は、交替後数分も経たないうちに電信柱に衝突し、2人とも怪我を負ってしましました。
ここで質問です。自賠責保険は支払われるでしょうか?@2人とも支払われる。A2人とも支払われない。BB君のみ支払われる。CC君のみ支払われる。
正解はAです。2人とも自賠責保険の被保険者であり、「他人」に該当しないからです。C君は、親族関係からするとB君からみて他人になるかもしれませんが、運転者本人だからです。
また、B君は、ハンドルを握っていた訳ではありませんが、その車の所有者だからです。任意保険の対人賠償保険でも、「妻は他人」事件同様、被保険者本人となり保険金は支払われません。
このようなケースでは、運転途中疲れたら自分の車の助手席で休むのではなく、分乗して行っている友達の車の助手席で休むのが賢明でしょう。でも、こんなことを考えて海水浴に行く人はあまりいないと思いますが・・・。また、別途、このようなケースでも支払われる任意の自動車保険がありますが、次の機会に譲ります。
by 安井敏夫(CFP 東京都足立区)